専門委員の声
- 専門委員として活動した感想を教えてください。
- 自分の無知さを知り、また自分の得意とする部分が活かされ、自分を見つめなおすことができる活動だと確信しています。
利害関係なく技術者同士が持論を語り合い、自分たちで実験を通して証明し、具現化したデータをもって均霑の精神で世に送り出す、唯一無二の存在意義のある活動だと思っています。
企業の枠を超えた技術者が集まって課題解決を図り、その活動を通じて技術者の育成、日本のものづくりに貢献。
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小田陽平(専門委員)DMG森精機株式会社
能上 進(第3代会長)
切削油技術研究会(以下、切技研)の創立は西暦1954年です。
民間企業の加工の現場の技術者が集う研究会ですが、この様な歴史を持つ民間研究団体の存在は希有なことと思います。
「継続は力」と申しますが、切技研の存在意義をこの歴史が証明していると思います。
当会が発足当時、日本は戦後の復興期にありました。
加工現場で使用されている設備等は戦前・戦中のものが多く、現在と比較にならない稚拙な物でした。
そのため、加工条件は低く、各社にとって「生産性向上」が至上課題でした。
時折入手される海外の技術誌を見て、彼我の差が認識され、それに啓蒙されて勉強した時代です。
創立に関わった方達は、当面するこの課題は各社が独自に抱える課題としてよりも「日本のものづくりの課題」として、企業の壁を越えた生産技術者の勉強会にしようと計画し、切技研を発足させました。
切技研の正式な名前は「切削油技術研究会」です。
なぜ「油」が付いたのかについて説明をしておきましょう。
前述のように発足当時の機械加工では加工能率が低く、加工精度や加工表面粗さの確保、加工能率、工具寿命には「構成刃先」を如何にコントロールするかが加工技術者の重要な関心事でした。
当時の現場の与条件下でこの課題に最も直裁に応えてくれる影響力が大きかったのが「切削油剤」でした。
切削油剤に焦点を当て、切削現象を掘り下げていこうというのが当研究会の発端でした。 民間の研究会と言っても、その運営には多少の予算が必要になります。
当時ユシロ化学工業の創業者であられた森本貫一氏がこの様な日本の生産技術者達の声を聞き、「無私奉公」の支援を申し出られこの研究会の発足となったのです。
今年は新元号「令和」の御代を迎えました。
戦後73年この間、日本のものづくりに関するコンセプトには大きな曲折がありました。
ものづくりには「市場に対して何を創るか」と言うことと、「決められたものを如何に作るか」と言う課題が在ります。後者が生産技術の仕事です。
工業が円熟してくると、前者の「何を創るか」が企業にとって大きな課題となりますが、後者は無くてはならない技術です。
私が学生の時代(1955年大卒)には、機械工学科では機械工作法の講座は必須科目でした。最近は選択科目になっていて、余り人気が無いように聞いております。
これも時流という事でしょう。
だからこそ、切技研のような研究団体の必要性が高まって来ているのだと思います。
製造業はものを作る場です。
職人が持てる技能と生産技術が一体となって「如何に作るか」を進めなければなりません。
切削加工では被加工物と工具刃先との間で行われているドラマは極めて多彩です。
基本は金属の破壊除去法ですが、そこには熱力学、塑性変形、摩擦、金属間の反応、溶着、剥離、流体としての挙動・・・・・など極めて多要因は現象が切削点で行われ、その結果が切削加工の成果として表れてくる訳です。
私は長年切削加工に携わってきた者ですが、切削現象は余りに多要因な現象ですので、これを学問として研究するよりは、「臨床技術」として積み重ねていくことが賢明ではないかと考えます。
切削現場では切削加工に関する与条件「工作機械、切削工具、被加工材、切削条件、作業環境・・・・・」が次々変わります。
臨床技術に対する取り組みが、日本のものづくりに対する大きな強みの一つと確信しております。
よその国では中々真似の出来ない「技」、「術」、「芸」が臨床技術として根付く事そして進歩することが大切なことと思っています。
切技研活動のこの65年間の歴史にはこんな意味が大きかったように考えます。
製造業の宝として切技研活動が盛んなることを期待しております。
村田有造(元運営委員)
私と切技研とのお付き合いは昭和36年会社へ入社2年目に切技研の総会に出席して以来、今日まで58年間の長きに達しています。
この間会社では得られない体験、優れた先生、先輩、友人との出会いに恵まれたことに感謝しています。
特にユシロ化学の森本様、新宅様、金山様の若い技術者への支援が会社経営から離れた大きな意思におる優れた使命感によるものと感じております。
日本の高度成長を支えた機械産業の技術者がそれぞれ会社の帰属意識から離れて交流できたことは、日本の産業発展に大いに貢献したと思っております。
また、DRTマニュアルをはじめ数多くの技術書の出版は若い技術者にとって切技研の活動のインセンティブでありました。
専門書としては優れた書物であったと自負しておりますが、執筆には慣れておらず、市販の出版物としては勘定の合わない事業であったとユシロ様にはたいへんご迷惑をかけたものと恐縮しております。
また歴代の会長の和田様、中村様、能上様、運営委員の諸氏、竹山先生をはじめとする指導された諸先生は優れた見識を持たれておりました。
常に新しい材料や技術の出現に敏感であり、若い専門委員がこれを吸収するだけでなく、世の中への均霑を図ることを進められました。
私個人としては会社生活では得られない体験や優れた人との出会いが多くあり、切削油技術研究会の活動をなくしては私の人生の充実は語れないと痛感しております。
今後もAIやIoTなどの発展が進み、また量子コンピューター、ブロックチェイン、通信の5G等のハイテクは21世紀の産業革命の出現ともいわれていますが、切削に関する技術の大切さは医療機器加工等ナノテクノロジーの発展にも貢献しており、切削の基本は今世紀もあらゆる産業の進歩に関与して行くものと信じています。
若い人たちの活躍に大いに期待しています。
石川雅之(運営委員) 荻野工業株式会社